高齢者の疼痛性障害

藤沢大介 高齢者の疼痛性障害 老年精神医学雑誌 2009;20(2):154-159

  • 高齢者において疼痛性障害の診断基準を厳密に満たす例は少ないが、心気愁訴は頻度が高い。抑うつ、不安、併存する一般身体疾患、生来の性格傾向(とくに神経症傾向)が影響する。医療者はまず抑うつや不安の潜在を念頭において治療にあたる必要がある
  • 疼痛性障害における疼痛は、虚偽性障害詐病のように意図的に作り出されたりねつ造されたりしたものではない。また気分障害、不安障害、精神病性障害などではうまく説明できない
  • 疼痛性障害の患者の日常生活のさまざまな側面が、疼痛によって破壊されている。慢性型疼痛性障害の患者には失職、能力低下、家族問題がしばしばみられる。医原性に鎮痛薬やベンゾジアゼピン類の依存乱用がおこることもある。重い抑うつ状態が伴っている患者と、終末期疾患(とくにがん)と関連している患者は自殺に危険性が高い。疼痛のために活動性が低下し、社会的んい孤立するようになり、その結果、さらに心理的な問題(例 抑うつ)が強まったり、身体的な耐久力減弱したりして、倦怠感や疼痛が強まる
  • 急性の疼痛は不安障害との合併が多く、慢性の疼痛はうつ病性障害との合併がおおい。いづれにも不眠を伴うことが多い。合併する精神疾患は、疼痛性障害に先行する場合も、疼痛性障害の結果として後から生じる場合もある
  • 疼痛と関連した臨床検査所見の存在の有無は診断とは関係しない。そうした検査所見が偶然に疼痛に一致して存在している場合もあれば、逆に客観的所見が存在していなくても一般身体疾患が存在している場合があるからである。
  • 高齢者における疼痛性障害の診断基準の妥当性は確立されていない。痛みの訴えは複数の一般身体疾患を有している人と、神経症傾向の人にとくに多いが、多くの高齢者は、痛みを加齢の影響とは考えても、心理的要因の関与を認める人は少ない。
  • アメリカEpidemiological Catchment area研究でも、身体愁訴をもつ患者のほとんどはうつ病えあり、したがって、身体化障害そのものが問題となるよりは、潜在するうつ病の除外が重要と考えられる
  • 不安の心理学的機制は、「もし〜したらどうしよう?」という心配であり、身体感覚は過度に敏感になり、ちょっとした身体症状を脅威と認知することである。
  • 身体疾患を多く有する高齢者のとって、身体症状は重大な病気は機能障害につながる重要な関心事である。
  • 不安を有する高齢者は薬物の危険を過大評価し、副作用を必要以上に大げさに考えている。
  • 身体症状を有する高齢者は、身体症状の存在を危険なものと考えて、日々の活動(運動や旅行など)を制限し、医療機関を頻回に受診するようになる。
  • 身体症状の心理的関与を否定ないし軽視することが多いため、精神科を拒否することが多い。薬物療法も心配の種となり、「自分は薬に敏感だ」「自分には薬があわない」と訴える患者も多い
  • 対応の一般原則
    • 身体愁訴に対する対応としては、慣習的には「(重大な病気ではないという」安心と保証を与えること」が推奨されていたが、この方法はほとんど有効でないようである
  • 線維筋痛症神経因性疼痛など、特定の疼痛性疾患に対しては、抗うつ剤の有効性が確認されている。エビデンスが確立しているのは三環系の抗うつ剤であり、新規抗うつ剤の効果は今後の検証が待たれる。