痛みの脳内機構

森岡周 痛みの脳内機構 理学療法学 2008;35(8):441-442

  • 痛みは「どういう痛みか」「どのくらいの強さの痛みか」「どこに発生したか」等の痛み刺激を識別する感覚的側面、痛みに対して不快や嫌悪を感じ、これに伴ない心拍数が上昇したり発汗を生じる等の自律系神経反応を起こし、不安を出現させる情動的側面、脳内の記憶に照らし合わせて、与えられた刺激が自己においてどのような痛みかを認識する認知的側面に分類される
  • 脳の中には身体地図が存在している。身体地図は末梢器官に痛みが生じ持続することで可塑的に変化する
  • CRPS type Iにおいては、痛みに対応した第一次体性感覚野領域の縮小や身体地図に基づく身体の図式化に異常をきたしていることが報告されている。身体図式は主に頭頂葉連合野に蓄えられている。この身体図式は視覚情報と体性感覚情報の統合によって生成される
  • Ramachandranは、幻肢痛は意図した運動と感覚結果の食い違いによってうまれることを報告した
  • 上田と森岡は、慢性腰痛者と非慢性腰痛者の体幹伸展運動における視覚と体性感覚に基づく実際の運動結果の食い違いを調べ、慢性腰痛者において、その食い違い(誤差)が有意に大きく、同時に記録した脳活動において、Finkらの結果と同じように、前頭連合野外側部に活動の増大を認めた
  • 中枢神経系にとって身体は情報器官となる。その情報に問題があれば、中枢神経系における予測機構との間に食い違いが生じる。末梢器官を実行・支持器官のみと捉えず、情報器官として捉えることも、今日の痛み治療には必要なのかもしれない
  • 慢性痛胃おいて末梢器官に問題がないのであれば、おそらくこの知覚・認知的側面に由来した痛みの出現であることが考えられる
  • 患者の不定愁訴はなんらかの認知的あるいは情動的な比較機構によって言語化されている場合がある。それは昨日の記憶かもしれないし、他の身体との比較かもしれない。脳こそが身体の経験を作り出す源となる。したがって、その身体に関する言語が何によってもたらされているかを痛みの脳内機構の知識を用いて評価し臨床意思決定することが、痛みに対する治療には求められているであろう。