痛覚による恐怖条件付けにおけるセロトニンの機能的役割

井上猛、小山司 痛覚による恐怖条件付けにおけるセロトニンの機能的役割 医学のあゆみ 2010;232(1):75-79

  • アメリカのLeDoux,Fanselowらが中心となって行った膨大な数の脳局所破壊実験により、恐怖条件付の神経回路が最近明らかになってきた
  • 条件刺激が音(cue)か文脈(context)かで入力部位は異なるが、それぞれ扁桃体の外側核と基底外側(最近は基底核と呼ばれる)に条件刺激情報が入力され、無条件刺激と条件付けられ、扁桃体中心核からさまざまな脳神経核に出力され、中脳中心灰白質ですくみ行動を、外側視床下部で血圧上昇心拍数増加を、視床下部室傍核で副腎皮質ホルモン濃度上昇を、結合腕傍核で呼吸数増加をもたらす。
  • このように扁桃体は恐怖形成において中心的かつ重要な役割を果たしており、両側の扁桃体破壊は恐怖条件付けの形成、あるいはいったん形成された恐怖の発現をほぼ完全に抑制する。
  • さらに社会不安障害患者でも、怒りや軽蔑の表情の認知や人前で話すことが扁桃体の血流増加をもたらし、後者についてはSSRI治療や認知行動療法によって改善することが報告された
  • 扁桃体での5-HT代謝亢進は、恐怖の増強をもたらすというよりは、むしろ恐怖の増強に対して抑制的に機能している可能性がある
  • SSRIによる細胞外5-HT濃度増加がCFS(conditioned fear stress)において抗不安作用をもたらしていることを示唆している
  • 両側扁桃体規定外側核のcitalopram投与のみがすくみ行動を有意に抑制した
  • SSRI(citalopram)の全身投与はCFSによるすくみ行動を抑制するとともに、CFSによって誘発される扁桃体基底外側核のc-fos蛋白発現を抑制した
  • すくなくともSSRI扁桃体基底外側核にたいして抑制的に作用していると考えられる
  • 著者らの初期の研究で恐怖条件付セッションを繰り返してCFSを負荷すると扁桃体の5−HT代謝が更新してくるという所見がえられたが、この所見の意味は恐怖の増強に対して5−HT系が適応的に反応し、扁桃体での神経伝達が亢進したと解釈出来るのではないかと考える