脊髄における下行性抑制系の役割

川崎康彦、河野達郎 脊髄における下行性抑制系の役割 Brain Medical 2009;21(3):251-256

  • 人体は生まれつき痛みを和らげる仕組みを備え持っている。痛い部分を押さえたり、何かに集中したりすると痛みが軽減することを、われわれは自然に知っている。これは生体内の防御機構として痛み情報伝達を自ら調節するシステム、すなわち内因性鎮痛機構を働かせている一例でもある。
  • 痛みの伝達経路を抑制する機構の一つが、脊髄内鎮痛機構で、介在ニューロンから抑制性神経伝達機構(GABA,グリシン)を放出し、脊髄後角の痛覚ニューロンを抑制する。もう一つは脳幹より脊髄へ痛み情報を制御する、下行性抑制系。この系での脳から脊髄へ放出される神経伝達物質ノルアドレナリンとセイロトニン
  • 1969年、Raynoldsは中脳中心灰白質(periaqueductal gray;PAG)を電気刺激しながら開腹手術をすると痛み反応を示さないことを報告した。
  • PAGの発火によって放出されたノルアドレナリンセロトニンは、それぞれαアドレナリン受容体セロトニン(5-HT)受容体を介して、一次求心性線維終末からの神経伝達物質の放出や脊髄後角表層に存在する介在ニューロンの活動を抑制し、鎮痛作用を生じる
  • アドレナリン受容体 α1、α2、β1、β2
  • 脊髄ではα1(GABAおよびグリシンを含む介在ニューロンを活性化させることによる抑制性伝達物質の放出増加で鎮痛)、α2を介する鎮痛機構が知られている
  • 末梢神経障害後の神経因性疼痛に対するα2受容体の役割は大きい α2受容体作動薬 クロニジン、デクスメデトミジン
  • セロトニンによる下行性抑制系は、RVMに位置する大縫線核から脊髄側索外側部を下行し、脊髄へ投射する。脊髄での投射域は広角表層のI,II層、中心管周辺、中間外側細胞柱、そして前核にそれぞれ分布している。興味深いことに、このセロトニン含有線維と並行して、同じく痛みの抑制に働くGABA、グリシンを含む線維もRVMより脊髄後角に直接線維を伸ばし、鎮痛効果の発現に関与している。