慢性痛における扁桃体シナプス伝達の可塑性変化

加藤総夫 慢性痛における扁桃体シナプス伝達の可塑性変化 医学のあゆみ 2007;223(9):706-712

  • 痛みはおそらく、個体に生じている有害事象を感知する警告系として進化したものであり、その警告としての働きは、痛みによって不可避的に誘発される負の情動によって達せされている。侵害受容器から中枢神経系に伝えられた疼痛情報は視床→皮質体性感覚野という一般体性感覚と類似の上行路だけでなく、帯状回扁桃体などの情動関連神経構造にも異なる経路を介して伝えられる。これらが同時に並列的に活性化されることによって生じる統合的総体が痛みという特殊な感覚の本態である。
  • 慢性痛は組織損傷の通常の治癒期間経過を過ぎても持続する、明らかな生物学的意義のない痛みと定義される。組織損傷が治癒していたり、そもそも存在していなければ、そこに警告系としての意義がもはや存在しないことは明らかである。
  • 急性痛を伝える経路
  • 扁桃体中心核は負の情動行動、恐怖学習、あるいは危険な状況や痛みに対する自律応答の発現などにおいて主役を演じる神経核である(Bernard, Neugebauer)
  • 疼痛受容性扁桃体 nociceptive amygdale 扁桃体中心核外側外包部 CeLC laterocapsular part of the central amygdale
  • 脊髄-脚傍格-扁桃体 CeLCのニューロンが痛みの強さや部位の分析ではなく、おもに直接的な情動応答の誘発に関与している可能性を示す。
  • 慢性痛成立の背景には急性痛において侵害受容と情動系を結んでいる神経回路が示す何らかの可塑性変化があると考えられる。扁桃体は海馬と並びシナプス伝達の可塑的変化が生じやすい部位である。恐怖学習が不安行動の発現において主要な役割を演じている事実が多くの研究によって示されており、扁桃体は情動記憶形成の中枢であると考えられている
  • 一週間以上にわたる持続痛による扁桃体シナプス伝達増強の”固定化”が、慢性痛の本態である”原発性の組織障害や強い侵害受容なしに生じる強くかつ持続する負の情動”をつくりだす脳内機構である可能性を著者らは提唱している。