住谷昌彦、柴田政彦、眞下節 ヒト神経因性疼痛とは LiSA 2006;13(9):854-856

  • 神経因性疼痛のうち求心路遮断性疼痛は、体性感覚伝達経路の中断、すなわり侵害刺激が伝達されていないにも関わらず痛みを知覚する病態であり、この体性感覚入力が途絶えるという異常な身体感覚経験が神経因性疼痛の発症機序の一つではないか、と筆者は考えている。
  • 身体イメージは体性感覚と視覚を中心に各種感覚モダリティーを統合して脳内イメージとして形成されている。最近健常者において、鏡をつかって視覚経験と体性感覚経験による身体認知(身体イメージ)を解離させると、錯覚性の痛み、不快感が現れることが示された。
  • この知見は「身体イメージが障害されると病的痛みが出現する」という仮説を強く支持し、神経損傷に伴なう異常な身体感覚経験(身体イメージの障害)が高次脳機能に起因する痛みを引き起こしていると考えられる。逆にこのことを利用して、視覚入力による身体イメージの再形成による疼痛治療も報告さてきている
  • 米国で提唱されているCRPSの治療アルゴリズムは、CRPSに限らずヒト神経因性疼痛全般への応用が期待できる。この治療アルゴリズムでは、治療の主幹をリハビリテーションにおき、その段階的な治療が提唱されている。神経ブロックや神経刺激療法、あるいは薬物療法もリハビリを促進するための手段であるとの位置づけである、これらにもまた段階的な治療ステップが提唱されている。
  • さらに、痛みは感覚であると同時に情動体験であることから、リハビリや侵襲的治療に並行して、心身医学的治療も示されている。このように神経因性疼痛は治療開始時から多面的アプローチを行うことが必須である。