住谷昌彦、宮内哲、山田芳嗣、眞下節 幻肢痛の脳内メカニズム 実験医学 2008;26(13):2149-2152

  • 幻肢痛の臨床的特徴
    • 四肢切断時の年齢が低いほど幻肢痛は起こりにくい。先天性四肢欠損患者に幻肢痛が発症することは極めてまれ。→若年者の脳可塑性が高いことに起因
    • 一般に四肢切断前に疼痛を知覚している患者の切断後に現れる幻肢痛の性質は四肢切断前から知覚している疼痛の性質に類似しており、幻肢痛の発症に疼痛の記憶が関与していると考えられる
    • 心理的要因 切断前に家族からの支援が得られていない患者、疼痛に対する恐れが強い患者、日常生活でストレスを多く感じる患者ほど幻肢痛の発症頻度が高い
  • 幻肢痛の脳内メカニズム
    • 視床、大脳(S1,M1)では体部位再現地図が観察される
    • 神経損傷による求心路遮断によって体部位再現地図の再構築が起こる
    • 幻肢痛患者の視床体部位再現地図は投射野と受容野に解離があり、これも疼痛の発症機序とされる
    • 四肢切断後患者では視床の萎縮が観察され、罹病期間とせいの相関が認められるが、疼痛の強度とは相関がなく視床萎縮の幻肢痛発症への関与は否定的である
    • S1の体部位再現地図 上肢切断後患者ではその患側上肢に相当する領域が縮小し、上肢の隣に位置する口の領域が拡大している
    • 幻肢の大きさが変化する現象をテレスコーピング現象と呼ぶ
    • M1にも体部位再現地図あり、上肢切断後患者では上肢領域の縮小と口領域の拡大が認められ、上肢領域に存在する神経細胞の興奮性が高まっている。M1の機能再構築は疼痛(幻肢痛)を伴わない患者には観察されない。
  • visuomotor trainingによる治療からの観点
    • 四肢運動の際には、運動の指令に続いて運動の結果の予測(efference copy)と実際の運動(execution)が起こり、続いて実際の運動によって得られた感覚情報(腕の肢位など)がフィードバックされ運動予測と比較することによって新たな運動しれが準備される。この運動に伴う一連の運動系と感覚系の情報伝達には常に中枢神経系でモニターされ、知覚ー運動ループは多感覚情報によって統合されており、なかでも資格が最も重要である。
  • 知覚ー運動ループの観点から切断肢について考えると、脳からは切断肢を運動する指令が常に発動されているが、実際には切断肢の運動が起こらないために感覚情報のフィードバックが欠損し、運動予測との間に解離が起き、知覚ー運動ループの整合性が得られていない状況と考えることができるが、鏡療法は患肢への運動指令に対応した体性感覚情報の欠損を視覚的に代償して中枢神経系にフィードバックする結果、知覚ー運動ループが再統合され病的痛みが緩和すると考えられる。