柴田政彦 臨床痛の要因分析:神経障害性疼痛の発生機序 理学療法 2009;26(7):890-894

  • 神経障害性疼痛は「体性感覚系に対する損傷や疾患によって直接的に引き起こされる疼痛」と定義されている
  • 神経障害性疼痛をきたす疾患として、三叉神経痛帯状疱疹後神経痛、有痛性糖尿病性神経障害、外傷性末梢神経障害性疼痛、脊髄障害性疼痛、卒中後疼痛、幻肢痛などがある。
  • 神経障害性疼痛をきたす病態を大きく二つに分類すると、痛覚刺激の入力増強と痛覚認知機構の歪とがある
  • 原因となる疾患は同じであっても痛みの性質が異なり、異なった機序で働いていて、効果のある治療が異なる。ここに神経障害性疼痛の治療の難しさがあり、疾患別の治療でなく病態別の治療を志さねばならない。
  • 神経障害性疼痛に限らず、痛みの認知機構は十分には解明されていない。強い痛みが脳への入力が強いことと果たして関連しているかどうか、という基本的なことさえ十分に解明されていないのである。
  • ロディニアの発生機序 III,IV層から痛覚線維が終息するII層に神経線維があらたに発芽することが関与するという説が有力であった。しかしII層にあらたに侵入してきたAβ線維が機能的にあらたに関与しているかについては実証されておらず、今後の検証が必要である。
  • 脊髄後角における機能的変化
    • C線維が繰り返し刺激されると脊髄後角細胞が過敏になり、刺激終了後、数秒間から数分間持続する電気活動を生ずる。これをwind-upとよび、炎症性疼痛や神経障害性疼痛において重要な働きをすることが知られている。
    • 2000年代にはいって、マイクログリアなどのグリア細胞神経障害性疼痛の発生に重要な役割を果たしていることが明らかになった。
  • 神経ブロック 原因部位より末梢でブロックを痛みが消失する機序は不明である。

コメント 痛覚は末梢の情報が中枢へ伝達され、脳に認知される。腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症といった疾患は腰部の神経圧迫によって疼痛が生じるといわれる。神経根ブロックは上記の病態にたいして、治療や診断に用いられている。原因部位より近位をブロックすれば情報伝達をブロックできるが、実際は圧迫部位より遠位の神経根をブロックしているのに疼痛は消失する。この機序は不明とある。原因部位が神経根より近位ではなく、それより末梢にあるとすれば、疼痛寛解の機序が説明しやすくなるのではないか。