- 痛みの定義
- 痛みとは組織の実質的あるいは潜在的な障害にむすびつくか、このような障害をあらわす言葉を使って述べられる不快な感覚・情動体験である
- 注目すべき点は、主観的な体験を痛みと定義しており、人の発する痛みを表す言葉をもって表されるものを痛みと定義していることである
- 腹部内臓痛
- 真性内臓痛 内蔵器官に分布する痛覚線維がしげきされて生じるもの 非関連痛、関連痛
- 準内臓痛 腹壁の内面を裏打ちする壁側腹膜の痛覚線維が刺激されて生じる
- 胃や腸のような管腔臓器を切ったり焼いたりしても痛みは生じない。しかし、管腔臓器に生じた通過障害に逆らって内容物を移送しようとして胃や腸の平滑筋が強く収縮するときや、管腔内にいれたバルーンを膨らませたとき、痛みが生じる
- 腹部内蔵痛覚線維
- 上腹部内臓器官の痛覚神経は腹腔神経節を経て、大内蔵神経に加わる。この神経は第5から9までの胸交感神経節の枝を通って、交感神経幹に入る。ついで白色交通枝、胸髄後根を経由して脊髄後角で、痛みの2次ニューロンとシナプス接続し、痛みの2次ニューロンが脊髄を上行して、大脳に痛みを伝えている。
- 関連痛
- 内臓痛のインパルスを伝える求心性痛覚線維が入力する脊髄後根が支配する体壁に痛みが感じられる
- メカニズム 末梢から送られてきた痛みの情報を脳へ中継する脊髄後角のニューロンの一部に内蔵からの痛覚線維と皮膚からの痛覚線維がシナプス結合しており、これを収束と呼んでいる。内蔵に異常がないと、このニューロンはもっぱら皮膚からの痛覚線維を伝わってきたインパルスに反応して興奮する。これを繰り返していくうちに、脳波はこのニューロンの反応を皮膚の特定の痛みと関連づけてしまう。たまたま内蔵に異常が生じて、このニューロンが興奮すると、脳は皮膚に痛みがあると間違って判断してしまい、痛みのある部位からはなれた場所の体表の皮膚に痛みを感じることになる。これが関連痛である。
- 内臓痛を伝える神経回路
- 島皮質
- 3つの部位 無顆粒性、不全顆粒性、顆粒性島皮質
- 味覚、嗅覚、視覚、聴覚、触覚に代表される五感の機能に加え、痛覚、自律神経、感情、注意、言語、前庭機能などの機能に関与している
- 島皮質と同様に痛覚情報の当社を受けている前部帯状回と共通する機能として、痛覚以外に、自律神経、感情、注意、言語に関するものがある
- 島皮質や前部帯状回といった脳皮質が、心身医学の基礎となる、自律神経、感情、注意、言語といった機能についての役割をもち、心身医療で患者さんの心身症の病状が変化していくのに大きな役割を担っていると考えられる
- 前部、中部、後部で機能分化
- 痛みの予期の恐怖を感じると島皮質前部(右側)の活性が増す
- 実際の痛み体験では島皮質中部あるいは後部の活性が増す
- 痛みを表す画像をみて痛みを想像する際は、右島皮質前部、小脳、SII、前部帯状回(BA24野)、後部頭頂葉の活性化が報告されてい
- 島皮質に限局した脳損傷患者 右島皮質損傷お場合、視覚、聴覚、触覚による刺激に対して、無視の傾向がつよい
- 現在の知覚に対する感情の生成に島皮質前部が関与し、感情に対する行動への動機付けに前部帯状回が関与していると考える見方も報告されている
- 島皮質と感情の関連
- 悲しみの想起で左側優位で両側の島皮質前部に活動の増強
- 怒りの想起で両側の島皮質前部に活動の増強
- 幸せ、恐れの想起は右側の島皮質前部に活動の増強
- 恐れの想起では島皮質後部に優位な活動の低下
- 感情の誘発に対して、左皮質前部の活動に性差が報告されている
- 罪の意識が生じるとき、島皮質前部の活動が高まり、島皮質後部の活動が抑制されることが判明された
- このように、喜怒哀楽および罪の感情が、島皮質とくに島皮質前部における脳活動と関連しているという事実は、島皮質が内蔵からの情報入力が密であるという知見とあわせると、消化器心身医学の観点から非常に意味があるものと考えられる。特に怒りの感情と消化管の痛みついては臨床的にも関連が深いことが推定される。また、難治性慢性疼痛の症例において、腹痛が持続していることで罪の意識という葛藤への注目を回避できていると考えられた症例も複数経験しており、脳腸相関の観点から、痛みー感情ー島皮質の関係に関する知見が今後も注目される
- おわりに
- 侵害受容性疼痛という医学における中心的な痛みの経路においても、末梢の痛覚線維が伝える情報が島皮質や前部帯状回という情動の回路に投射していることが重要である。
- 痛みの上行路だけをとっても、この解剖学的な神経回路を理解するほど、痛みに対しての情動的な対応の必要性が浮き彫りになり、心身医学の基盤となる知識となっていると言えよう。