住谷昌彦、真下節、宮内哲 難治性疼痛に対する視覚を介した神経リハビリテーション 脳科学とリハビリテーション 2006;6:9-17

  • 痛みは通常、侵害受容器への刺激が、末梢神経、脊髄、大脳へと伝達された際に生じるが、この疼痛伝達経路に損傷をうけると上位中枢への感覚伝達がなくなり(求心路遮断という)、侵害受容器への刺激がなくとも痛みを感じる。これらは神経因性疼痛(抗議に求心路遮断性疼痛)と呼ばれる。
  • 四肢切断に伴う幻肢痛患者では、切断肢に応じた受容野が縮小し、その代わりに顔面の受容野が拡大していることがしられている。またCRPS患者でも同様に患肢の受容野が縮小し、幻肢痛と同様に顔面の受容野が拡大している。これらの行動面での変化は幻肢痛、CRPSともに顔面を触られると患肢を触られるように感じることによって示され、それぞれの疼痛疾患に特異的な変化ではない。この患肢領域の体部位再現地図の縮小は、病的痛みの強さと相関し、リハビリを中心とした疼痛治療や体性感覚訓練によって患肢の再現地図は拡大する。その結果痛みが軽減することも示され、末梢神経系の損傷であっても中枢性の機能再構築がおこり、それが病的痛みの発症原因の一つとなっていることが示された。
  • リハビリあるいは体性感覚訓練が一次性体性感覚野の機能地図を再構成し病的疼痛を緩和することから、疼痛治療の中心はリハビリであり、神経ブロックは1)末梢性の疼痛入力を遮断することによってリハビリを促進する2)神経ブロックによって一時的に体部位再現地図が再構築されるので病的な痛みによる一次性感覚野の異常な再構築をリセットしリハビリによる適切な体部位再現地図の再形成を促す、という二つの目的で行っている。実際、神経ブロックの効果が消失した後にも疼痛緩和が続いているのは、この体部位再現地図の再形成が行われたことによるものであろう
  • 痛みを感じている部位が大きく腫れ上がっているような印象を持ったことは、誰しも一度はあろうと思う。また、歯科治療(口腔の局所麻酔)の後には口唇が腫れているような錯覚を覚えることも少なからずあるだろう。このように、痛みあるいは神経ブロックによる求心路遮断は身体表象を変化させる病的痛みでも同様に患肢が大きくなったような錯覚をもつことが示されている
  • 体性感覚によって形成された身体表象と視覚によって形成された身体表象の調和がとれない場合には病的痛みをはじめとする異常な身体感覚が出現する。このように視覚は身体表象の形成に重要な役割を示し、時には体性感覚を凌駕することもある
  • 四肢切断患者は、身体表象が障害されていることに加え、機能的な義肢装着に比べ、美容目的の義肢装着によって痛みが増悪する傾向にがある。このことは、機能的な道具使用によって身体表象が変化するという知見から、機能的な義肢装着によって身体表象は回復するが美容的な義肢装着では障害されたままであることが考えられる
  • 麻痺肢が身体表象に体して機能を持たない義肢と同じ効果を与え病的な痛みの発症を惹起している可能性がある
  • 鏡療法の特徴
    • 視覚入力による身体表象の再形成を示唆する
    • 運動感覚に伴う身体感覚の表象が必須
    • 患者自身が疼痛治療に積極的に参加することを促すことができる
    • 無侵襲
    • 特別な装置を必要とせず安価に行える
  • 持続的な疼痛入力(病的痛み)は空間認知に影響を及ぼすという仮説をたてた
    • CRPS明らかに視空間認知は障害されていた
    • CRPSでは自己中心参照枠組みのみが選択的に障害されている
    • 痛み体する空間的注意によって視空間が偏位しているのではないことを明らかにしており、病的痛みによって直接的に視空間が偏位しているといえる
  • CRPSでは痛みによって視空間認知が偏位していた。このことは、体性感覚経験の変化が視覚経験に変化を及ぼしたといえ、逆に視覚経験の変化が体性感覚経験の変化(痛み認知の変化)をおこせるのではないか?と考え、半側空間無視に対しておこなわれているプリズム順応療法によって視覚経験を変化させた。その結果、プリズム順応が方向特異的に疼痛緩和とともにCRPSに特徴的な症状に対しても疼痛効果を示す症例を経験している。