住谷昌彦、宮内哲、柴田政彦、真下節 病的痛みは視覚と相補的(cross-modal)である 麻酔 2007;56:S71-77

  • 視覚と体性感覚は、身体周囲の環境を知るための環境系として生理的条件においてはお互いの認知に影響を与え合う相補的な(cross-modal)な関係であることが知られている
  • 病的痛みが視覚に与える影響
  • 暗条件では健常者の主観的自己正中はやや左にずれ、左CRPS患者はさらに左に、右CRPS患者は健常者よりも右方向に偏位した
  • 病的痛みは視覚認知(視覚を介した空間認知)へ影響を与えることがわかった
  • 病的な痛みが視覚認知(視覚を介した空間認知)へ影響を与えており、さらに病的痛みによる視空間知覚の偏位を矯正するような視野偏位プリズム順応によって病的痛みが改善することを示した
  • 脳は各種感覚情報入力を基に合目的的な運動のプログラムの遂行を行い、運動が遂行されれば再び感覚情報が脳にフィードバックされ、新たな運動のプログラムが立案される。このような感覚系と運動系の連携は、知覚ー運動協応(sensorimotor integration)と呼ばれる。この知覚ー運動協応が破綻した状態では、感覚系の異常として病的痛みがおこるという仮説が提唱されており、視覚入力(鏡)を用いた患肢の運動リハビリが病的痛みを軽減するという臨床的観察と、健常者四肢の視覚情報と体性感覚情報を破綻させると病的痛みが出現するという検証から支持されている。
  • CRPS患者においては、プログラムされた運動と実際に遂行された運動は異なっていると考えられ、運動プログラムから予測される体性感覚情報のフィードバックと運動遂行後に得られる体性感覚情報のフィードバックが同一でないという知覚ー運動協応が破綻した状態であることが示唆される。