柿木隆介 生理的な痛覚情報認知機構 ペインクリニック 2009;30(7):895-904

  • 脳磁図を用いた研究
    • 視床ーSI-SIIの経路が刺激のdiscrimitiveな側面(刺激の部位、強さ、種類)に関わり、視床ー島ー前部帯状回および前内側部側頭葉の経路が情動面や刺激に対応する行動に関わるのではないかと考えられる
    • C線維刺激による脳波、脳磁図反応の特徴的な変化は、覚醒度の変化と注意効果による変化がきわめて大きいことである。例えば、drowsy状態でもほぼ消失するし、暗算課題で痛覚刺激から注意をそらさせると(distraction課題)著明に反応の振幅が低下する。このような結果は、second pain,すなわち内蔵痛やがん性疼痛にたいして心理療法の効果が大きいことを示唆する興味ある所見である
  • fMRIを用いた研究
    • 右側半球のBrodmannの24/28/8野ではAδ線維刺激にたいしてほとんど活動がみられず、この部位がC線維刺激に選択的に活動する部位と考えられた。両側の島前部では、2つの刺激のいずれに大しても活動がみられるが、C線維刺激に対する活動が有意に大きかった。しかし逆にAδ線維刺激の場合に有意に活動が大きい部位はなかった。
    • 痛覚刺激に対するaACCとpACCの背側の活動は、多くの先行研究でも報告されており、pACCの活動は痛覚強度と相関し、pACCの背側の活動は認知や情動に関連が深いと報告されている
    • 本研究でみられた、second painに関連すると考えられるC線維刺激に大してpACCの背側の活動が有意に大きいという結果は、second pain認知がfirst pain認知よりも情動に関係が強いことを示唆している。ACCは機能的に、痛覚関連領域、情動関連領域、非情動関連領域の3つの部位に分けられるが、本研究でみられた活動部位は痛覚関連領域と情動関連領域に(特に前者)に該当している。
    • 最近われわれは、情動と痛覚認知に関してfMRIを用いて研究をおこなっている。例えば、実際に痛みを与えられなくても、注射のような「痛そうな画像」を見ただけでもpACCと島が活動することを明らかにした。これは「こころの痛み」と「実際の痛み」は辺縁系では同じように活動することを示しており興味深い。また、瞑想中に痛みを感じないヨガの達人では、瞑想中に痛み刺激を加えても、視床SII ,島、帯状回の活動はみられず、前頭葉頭頂葉、中脳に活動がみられた、これらの部位、特に中脳は下行系痛覚抑制系に重要な部位と考えられており、ヨガの達人では、瞑想中は何らかの機序により下行系痛覚抑制系が最大限に活用されるために、痛みを感じないのだろうと推測した。