痛み治療の人間学 (朝日選書)

  • 線維筋痛症 米国リウマチ学会の分類基準 1990
    • 慢性で全身的な痛み
    • 器質的疾患や炎症性疾患がない
    • 18カ所以上の定められた圧痛点(4kg/cm2以上)が11カ所以上認められる
    • 3ヶ月以上持続している
  • 女性に多い 米国の調査では女性3.5%,男性0,5%
  • 私たちは臨床経過から本症を心身症型と神経症型に分けた
  • 医療不信とは、実は医師不信である。こうした医療不信は、時に怒りに変わる。前に診てもらった医師に失望し、期待して次の医師を訪れる。しかし、その医師も患者さんに満足を与えないと、その医師に対して怒りをぶつける。前の医師に対しての怒りもあるから、怒りは倍増している。すさまじい怒りである。いわば、八つ当たりである。私たちもこうした怒りに直面することがある。
  • 人々は安易な方法を示す情報に惹かれる。すなわち、「自ら治そうとする」よりも、「誰かに治してもらいたい(しかも薬)」のだ。
  • 今日の疾病のなかで最も多い生活習慣病の発症には、遺伝的要因、自己破壊的生活習慣(無理をした生活習慣)、感染、老化などの要因がからむ。線維筋痛症についてはまだわからないことも多いが、こうした要因の中でも生活習慣、生きざまのしまる割合が大きい。
  • いかなる検査法よりも大事なことは、治療者が患者さんを全人的に理解しようという態度であり、患者さんの話を傾聴し、対話をし、そこから生きざまの情報を得、患者さんと医師がそれをきょうゆうすることである。
  • こうした治療を数回繰り返しながら、医師は患者さんの生活状態、すなわち、生きざまにメスをいれる。人生のなかでどこが歪んでしまったか、どこから痛み発症の温床がつくられてしまったか探る。
  • 自分の過剰適応的な生きざまが原因で線維筋痛症を発症した。
  • 生活習慣病の多くは、自己の歪んだ生きざま(生活習慣)が原因である。生きざまを正すのは結局自分でしかない。セルフコントロールの重要性がそこにある。わたしたち医療職の大きな役割は、患者さんが自ら治療に向かうような行動変容(生きざまを変えること)を行えるよう、導くことだ。人間には誰にも、よくなりたいという欲求がある。また私たち医師にもよくしたいという職業倫理がある。その両者が同期した時、治癒する。否、治癒に至らない場合でも、和らげることはできる。
  • 禅語の卒啄同時
  • 痛みは体験や体験に伴う感情と直接的に結びついた知覚である。したがって、痛みは記憶や感情と結びつきやすい。
  • 痛みというのは一種の学習された記憶であり、しかも不快な体験、忌み嫌う体験である。こうして、学習され、記憶されたものとして痛みは脳に深く刻まれる。
  • 患者さんが自ら気づいてくれる、医師として、治療者として、こんな大きな喜びはない