山下徳次郎 トリガーポイントが教えてくれる疼痛疾患診断の盲点 医道の日本 2004;730:55-66

  • 腰椎椎間板ヘルニアの診断を受けたMPS 治療対象となった筋 傍脊柱筋、腰方形筋、小殿筋腸腰筋
    • MRI/CTで椎間板ヘルニアの所見を認めても、その所見と疼痛の因果関係を示す根拠はどこにも存在しない
    • 多くの腰下肢痛の原因となるTPは、腰方形筋や小殿筋、梨状筋など臀部の筋に生じ、痛みだけではなく大腿や下腿、足、趾のしびれ感、知覚鈍麻などの症状を引き起こす。また母趾や足関節の背屈力低下は、2次的に生じた前脛骨筋、長趾伸筋、長母趾伸筋の拘縮に伴う筋力低下としておこることが多い。足関節の底屈力低下は、小殿筋にTPと拘縮が存在しても起こりうる所見である
  • 変形性膝関節症の診断をうけたMPS
    • 内側広筋のTPから生じている可能性が高い
    • 膝関節部に感じられる疼痛の原因となるTPは、大腿四頭筋、特に内側広筋、外側広筋、におおくみられる他、内転筋群、大腿筋膜張筋、小殿筋などにもしばしば観られる
    • 正座ができない場合、大腿四頭筋の拘縮が原因であることがおお区、TPの治療とともにストレッチをおこなって拘縮を解除すれば、疼痛の改善とともに自ずと正座できるようになる
    • 膝関節の関節摩耗による関節裂隙狭小化は、大腿四頭筋の拘縮による筋短縮が原因でおこる減少であり、痛みの原因はその筋拘縮に伴うTPであって、決して軟骨摩耗による関節裂隙狭小化が痛みを引き起こしているのではないと、私は考えている。
  • 肩関節周囲炎の診断をうけたMPS
    • 棘下筋、肩甲下筋のTPを疑う
    • 日頃診察していると、肩関節の疼痛と可動域制限をきたすものの大部分はMPSである。したがって肩甲上神経ブロック、腋下神経ブロックはもちろんのこと、肩峰下滑液胞内注射や肩関節腔内注射は適応となららず、治療は障害された筋のTPを不活化するためのTPAとストレッチを行うべきである
  • 半月板損傷の診断をうけたMPS
    • 内側広筋、外側広筋のMPS
    • MRI検査における半月板の異常所見は必ずしも膝の疼痛の原因となっているわけではないと考えられる
    • 膝の疼痛とMRIにおける半月板の異常所見の因果関係には伸張になるべきであり、安易な関節鏡検査を行うことは慎まなければならない
  • 腱鞘炎の診断をうけたMPS
    • 左母指対立筋、長母指外転筋にTP
  • 頸椎椎間板ヘルニアの診断をうけたTP
    • 頚部の前屈と後屈に制限 左後斜角筋、胸椎上部の多裂筋と回旋筋にTP
    • 斜角筋TP 母指示指まで関連痛あり 疼痛だけでなく握力の低下や上肢のしびれ感も伴う
    • 画像検査に異常所見を認めた場合、その所見と症状の因果関係については十分吟味されなければならず、その際呈している症状がTPによってもたらされている可能性も考慮しなければ、正しい診断は不可能である
  • 脊柱管狭窄症の診断をうけたMPS
  • MPSが臨床医に認められない最大の理由は、MPSが画像診断、病理診断、血液検査など現代医学的診断で重要視されている客観的な所見として捉えられないためであると考えられる
  • MPSを正しく診断することができれば、鍼療法(TPA)とステレッチという侵襲のほとんどない方法で的確に疼痛を改善できるのである
  • MRIやCTなどの画像検査で認められた異常所見を診断の最大の根拠としているにも関わらず、認められた異常所見と患者の訴えている疼痛との間の因果関係を示す証拠が存在していないことである
  • John E Sarno 私の経験では、脊椎の構造的な以上が背腰痛の原因であったことはめったにない 構造異常に原因を求めて診断するのは実に残念な誤りである 従来の診断の多くが恐怖を生み出しており、その恐怖が痛みを悪化させ、慢性化させる主因となっている
  • 私は、疼痛疾患の診断を正しく行うためには、臨床医がMPSの存在を認めるとともに診断の際にその存在を常に念頭に置いておくことが不可欠であり、また疼痛疾患の診断における画像診断の位置づけや、患者の訴える疼痛と画像の異常所見の因果関係についての判断などを再検討することが必要であると考えている
  • 多くの場合関連痛を発生させているTPの部位と、関連痛が感じられる領域が離れている
  • 腰痛の原因となる筋は腰部の筋(傍脊柱筋、腰方形筋)だけではなく、背部の多裂筋、回旋筋、腸腰筋、腹直筋といった一見腰痛と関係内容にみえる筋に生じたTPによっても引き起こされる
  • Bonica's management of pain MPSの診断を行うためには、関連痛のパターンを記憶しておくことが不可欠であり、少なくとも関連痛パターンを掲載した書物をそばにおいておかなくてはならない。

http://www.tvk.ne.jp/~junkamo/new_page_300.htm