松原貴子 慢性痛について 慢性痛の病態とマネジメントの実際 理学療法探求 2007;10:1-6

  • 実質的な組織損傷に基づいて起こる痛みは急性痛であり、正常な生体反応として必要不可欠な感覚である。一方、あきらかな損傷のない(または損傷が治癒している)場合の痛みは症状というよりむしろ新たに発生した病気、すなわち慢性痛症として捉えるべきもので、異常な反応である
  • 痛みには、感覚ー識別的、感情ー情動的、認知ー評価的側面がある
  • 健常なひとが侵害刺激をうけると、感覚ー識別情報は視床の外側核群を経由し一次体性感覚野にいたると同時に、情動や認知に関する情報は視床内側核群から前帯状回や島へ伝達される
  • ところが、慢性痛患者では、主に前帯状回と島皮質の活動が増強し、一次体性感覚野の活動が減弱消失することから、痛み刺激により一感覚ではなく情動反応が惹起されるとともに歪んだ認知処理が行われることが示唆された
  • 慢性痛患者に侵害刺激を加えると、強い痛みを感じるにも関わらず、視床の活動が認められない、痛みを擬似的に体験させるだけでも不快な情動反応とともに前頭葉、前帯状回、体性感覚野で活動が観察されることが明らかにされた
  • つまり、慢性痛患者では痛み経験を繰り返していくうちに、いっさいに痛み刺激が加えられなくても、脳内で情動的な痛み体験を繰り返し、中手神経系に可塑的変化を引き起こしている可能性が考えられる。
  • 運動と筋コンディショニングによって、身体の機能のみならず、構造をも改善することが慢性痛に苛まれた生活へ逆戻りさせることなく、慢性痛に打ち勝てる心身を再構築することになる。警告信号としての意味のある正常な痛みの認知と健全な肉体を患者維新が取り戻すためのサポートが最大の治療法である