p288 智原栄一 麻酔科医の立場から 他職種と連携していかに疼痛と和解する物語を導くか

  • 前医における検査や診断の過程をていねいに説明するだけで、思いのほか患者が落ち着き、かつ感謝された経験をお持ちの医師は少なくないであろう
  • 慢性疼痛の場合は、疾病と患者の関係は、急性疾患と比べてより緊密なものである。疾病を病害として否定することは、患者の存在や人生そのものを否定しかねないというケースもまれではない。診断がつき、それが治療困難なものであるという場合に、患者が無力感や自己否定的な感情に陥り、診断確定が病状を悪化させる可能性を持つことを留意せねばならない
  • 慢性疼痛患者がしばしば医師に求めるものに病因の特定がある
    • わたしはなぜこのような病気になったのか
    • 何がわるかったのか
  • 治療効果が上がらない場合になぜなぜと考えてしまうことは決して責められないが、このようないわゆる犯人探しは不毛である。
  • 慢性疼痛の場合、病因がはっきりしても、患者はなおなぜをくりかえす
    • 患者はなぜその病因が他の誰でもない私におこっているのか
    • そのような病因がわたしに降ってきたのは一体どういう因縁なのか
    • わたしはこんな病気になるようなどんな悪いことをしたというのか
  • 慢性疼痛患者はペインキャラクターと呼ばれる特徴を有する
    • 被害妄想、過度の自身の体の変調に敏感
    • 一歩はなれて患者を観察している医師には、その人の(生活歴や社会環境を含めた)性格的特徴がその疾患を構成しているようにしばしば感じられる
    • 逆に慢性疼痛という身体的ストレスの蓄積が、そのような患者性格を作り出しているともいえる
    • 疾患と患者の症状と性格は不即不離なものとなっている
  • 慢性疼痛を扱う医師は、一緒にこの悪さをしている病原菌をやっつけましょう。症状に耐えて戦えば必ず相手を倒すことができますよというメッセージでなく、この痛みはご自分のからだの一部としてあるものですから、痛みとうまくつきあいながら生活の質を上げましょうというアプローチを用いるのが通常である
  • いたずらに疼痛症状と対決するばかりでは、患者は消耗し、やがてうつ反応へと逃避していくことになる
  • 対決に浸かれ、対決から逃避するために、すべてに対して無関心を装う防衛機転を発動させる訳である
  • 他職種を含めた患者ー治療者関係の中で、患者自らが疼痛との和解の物語を導くことに成功すれば、患者は治癒への一歩を踏み出すことができる。