細井昌子 心因性慢性疼痛 治療 2008;90(7):2063-2072

  • 心因性疼痛は、痛み体験の慢性化に伴い、痛みによる不快感覚および不快感情に加えて、生育歴や生活環境からくる心理的葛藤に由来する不快感情が混在し、苦悩が深まっている病態と考えられる。
  • 痛み体験には、それが急性疼痛であろうと侵害受容性疼痛であろうと、感覚体験と情動体験が常に混在している。これは生命の危機をおびやかす状態の始まりを意味する痛みをおこす事態において、なにか大変なことが起こっているという情報を個体に認知させるために、不快情動が生起されるような体の仕組みが設置されていると考えると理解し易い
  • 痛みと不快情動の関わりは、心因性疼痛患者のみに起こるのではなく、ヒトであればみな起こっているという認識が重要である
  • 痛みの生体内経路とその修飾系
    • 外側脊髄視床路 痛みの局在部位、強度、質などの識別的評価を行う経路
    • 内側脊髄視床路 痛みの情動的評価を行う経路
    • 下行性疼痛調節系
  • 心療内科における心理療法は、ヒトの脳回路に存在する痛み、認知、情動、自律神経、行動の密接なつながりを基盤としており、治療者が言語的あるいは非言語的な患者への働きかけを通して、各症例における独特な既存の神経回路の混線をいかに建設的に再構成するかという観点で行われている
  • 帯状回や島皮質といった部位で、痛み体験に伴う自律神経反応、感情、注意、言語に関する情報が集結し、痛み関する症例ごとの言語的反応あるいは行動様式を多様化している
  • 痛みを侵害刺激やそれに対する器質的変化の結果としてのみ捉えるのでは不十分であることが理解されるであろう。患者の個人的な体験に基づき神経回路が修飾された結果としての痛みに体験に注目し、脳科学的な知識を理解した上で、さらに患者の苦痛に対する医療者の共感力や想像力を駆使して、病態を考えていくことが重要である
  • 痛みの理論的分類
    • 脳内の回路の異常 心因性疼痛(学習性疼痛、精神医学的疼痛)
    • 痛覚伝導路の異常 神経障害性疼痛
    • 末梢の異常 侵害受容性疼痛(器質的異常、機能的異常)
  • 学習型疼痛
    • オペラント学習型疼痛 疼痛行動
    • 回避学習型疼痛
  • DSM-IV-TR 疼痛性障害
  • ICD-10 持続性身体表現性疼痛
  • 慢性疼痛の心身医学的病歴の取り方
    • 準備因子、発症因子、持続増悪因子
    • 準備因子 生育環境が厳しく、過度に几帳面な性格、強迫的な人格特性、過剰反応、気づきに乏しい(失感情症)
    • 発症因子 感冒による急性腸炎、手術、帯状疱疹、身内の死、職場でのトラブル
    • 持続増悪因子 うつ、疼痛行動の持続因子
  • 慢性疼痛の評価
    • 痛みが遷延化するにつて、痛み感覚に、痛み由来の不快な感情に加ええ、生育歴や生活環境からくる心理的葛藤による不快感情が加わり、患者の苦悩が大きくなり、この感覚体験と不快感情体験の混合愛犬を痛みとして、身体所見に比して激しく表現している
  • 痛みに対する悲観的否定的な感情である破局化catastrophizingという概念が注目されている
  • 慢性疼痛の治療目標
    • 痛みに対する耐性を高め
    • 痛みのある生活を受容しその自己コントロール感を獲得し
    • 日常生活の行動範囲を広げ
    • 社会生活への適応を改善していくこと
  • 臨床的に慢性疼痛治療に携わるものとしての感想として、心因性疼痛という病名は患者に「自分で痛みを引き起こしてる」、「本人が勝手に痛がっている」と感じさせることが多く、患者ー治療者で共有する病名としては、ふさわしくないと感じている。