柿木隆介 痛みは脳でどのようにして認知されるか 医学のあゆみ 2007;223(9):717-722

  • 脳波
    • 細胞が活動するときに電気が流れ、その注意に磁気が生じる。電気活動を記録するのが脳波で、磁気活動を記録するのは脳磁図
    • 脳内の電気活動は脳脊髄液、頭蓋骨、頭皮という伝導率が大きくことなる三つの層を通過するためかなりのひずみが生じてしまい、頭皮上の脳波電極で記録する場合誤差がかなり大きくなる
    • 磁場は伝導率の影響を全くうけないため、脳磁図は脳波に比べて空間分解能(活動部位をより正確に決めることができる能力)が高いという長所がある
    • 脳波や脳磁図はPET,fMRI,NIRSのような脳代謝あるいは血流を計測手法に比べて時間分解能が非常に高く、ミリ秒単位の解析が可能 fMRIは秒単位
  • 脳磁図を用いた研究
    • Aδ線維を上行するfirst pain
      • 触覚刺激の場合には2つの異なるSI領域(3b野と1野)が連続して活動するのに対して、痛覚では1野しか活動しない 痛覚は刺激部位の同定だけが行われているのでは?
      • SIIは侵害性刺激の性質認知にかかわり、島は情動的認知にかかわるのでは
      • 視床-SI-SIIの経路が刺激のdiscriminativeな側面(刺激の部位、強さ、種類)にかかわり、視床-島-全部帯状回および前内側部側頭葉の経路が情動面や刺激に対応する行動にかかわるのでは
      • 痛覚情報経路を2分する古典的な概念に従えば、前者がlateral system,後者がmedial systemに相当
    • C線維を上行するsecond painに関連する脳活動
      • C線維の特徴 Aδ線維に比べて興奮閾値が低く、末梢皮膚での受容体密度がはるかに高い
      • C線維刺激による脳波、脳磁図反応の特徴的な変化は覚醒度の変化と注意効果による変化が極めて大きいことである
      • つまりdrowsy状態でもほぼ消失するし、暗算課題で痛覚刺激から注意をそらさせると(distraction課題)、著明に反応の振幅が低下する
      • このような結果は、second painすなわち内蔵痛や癌痛に対して心理療法の効果が大きいことを示唆する興味ある所見である
  • fMRIを用いた研究
    • C線維刺激により両側半球の視床SII,前部、中部の島、前部帯状回の前部背側aACC、それに補足運動野の前方pre-SMAに有意な活動がみられた
    • Aδ刺激により両側半球の視床SII,前部、pACC,右側中部の島に有意な活動がみられた
    • 2種類の刺激に共通して活動する部位は両側半球の視床SII,右側の中部島、両側のBrodmannの24/32野(pACCが主)
    • C線維刺激の場合に有意に活動が大きい aACCの背側とpreSMAと両側の島前部
    • Aδ線維刺激の場合に有意に活動が大きい部位はなかった
    • pACCの活動は痛覚強度と相関し、pACCの背側の活動は認知や情動に関連が深いと報告されている
    • second pain認知がfirst pain認知よりも情動に関係が強いことを示している
    • 痛そうな画像をみたたけでもpACCと島が活動することを明らかにした
    • 瞑想中に痛みを感じないヨガの達人では、瞑想中に痛み刺激を与えても視床SII、島、帯状回の活動はみられず、前頭葉、中頭葉、中脳に活動がみられた
    • 中脳は下行性痛覚抑制系に重要な部位 ヨガの達人では瞑想中は何らかの機序により下行性痛覚抑制系が最大限に活性化されるために痛みを感じないのであろう