MB Med Reha 2002;23 慢性疼痛のリハビリテーション 2

加藤実 慢性疼痛への各種アプローチ 1.薬物療法 MB Med Reha 2002;23:46-47

  • 末梢神経症状が生じると
    • 末梢レベルでperipheral sensitization  
    • 脊髄レベルでcentral sensitization   下行抑制系の減少
    • さらに上位中枢でdisinhibitionという病態が個々にあるいは重複して生じる
  • 神経因性疼痛のターゲット
    • ナトリウムチャンネル  リドカイン、メキシレチン
    • central sensitization  ケタミン NMDA受容体に対して拮抗的に作用
    • peripheral sensitization
    • α受容体の発現や、交感神経の発芽
    • 伝達の亢進
    • 下行性抑制系の減少
  • NNT number needed to treat 個々の薬が、個人にどれくらい効くか 5であれば、5人に投与して一人に効く

久村正樹、鈴木勇一、稗田圭一郎、宮岡等 慢性疼痛への各種アプローチ 2.精神療法とその周辺 MB Med Reha 2002;23:51-56

  • 痛みというのは患者の言葉を通してしか評価できない
  • ICD-10での心因性の扱い
    • 言語の違いや精神科的伝統が異なると、心因性の意味合いが異なってくるので、この用語はカテゴリーのタイトルとしては使われていない。教科書などにいまだに登場することがあるが、それは診断者が明らかに人生の出来事や苦境を、障害の成因に重要な役割を果たしていると見なしていることを示すと受けとめるべきであろう
  • 身体医が身体疾患に起因しない程度の意味で用いることは明らかな誤りであるともいえるし、不適切な治療につながりやすい
  • 慢性疼痛の精神療法の目標
    • 疼痛に関連した行動を正常な行動におきかえる
    • 薬物乱用となっている場合、薬物に頼らないで生活できるようにする
    • 主観的な疼痛の強さを弱める
    • 日常生活の活動性を高め、障害や苦悩への対処法を教える
  • Fordyceら
    • 慢性疼痛患者の臨床像を、知覚としての痛みと痛みによる随伴行動の2つに分けた 後者を疼痛行動と呼び、これを不適応行動と捉え、治療の対象に据えた
    • 疼痛行動を強化しているのは周囲からの慰めなどの報酬であるから、疼痛行動に対して中立的立場で臨む
    • 健全で適応的な行動に対しては賞賛など陽性のフィードバックを与え、それを強化する
    • 患者と物理的接触時間の長い家族に対しては中立的態度をとれるよう、特に教育する
  • 認知行動療法
    • 歪んだ認知の存在を気づかせ、治療者と患者がチームとなり、その考えが妥当であるか、もし妥当でなければ、共同作業として認知の修正にとりくむ
  • 家族療法
    • 親から見捨てられるのではないかという不安が疼痛行動にあらわれている場合もある
  • 他覚的な身体病変があるとしてもそれが自覚症状を説明するだけのものでない可能性があれば、緊急性のない身体面の治療は急がない方がよい
  • 慢性疼痛では完治まで至らず、少しでも症状を軽くして、うまく痛みとつきあっていけるよう促すことが治療の目標となることが多い。そこでは患者の訴えを粘り強く、真摯に傾聴する姿勢が要求されるであろう。極端な場合、「辛いけど、この人(医師)がいるから生きてゆける」と患者が思ってくれたら、これも精神療法の成功とみなして良いのではないであろうか


早川洋、久保千春 慢性疼痛への各種アプローチ 4.家族療法 MB Med Reha 2002;23:64-69

  • 多くの場合、その心理的葛藤は家族や身近な人との関係の中で形成され、患者の疼痛行動は他者とのコミュニケーションを保つための手段であると考えることができる
  • そのような通常のコミュニケーションが何らかの理由でできない場合、まさに心身症の症状もコミュニケーションの手段として使われ、症状を介して家族関係の平行を維持しているという理解に立つ
  • 治療としての現状維持という逆説的メッセージに対して、患者や家族は混乱を示すが、この動揺こそが、これまで固定し、繰り返されてきた家族の関係や交流のパターン(悪循環)を壊し、新たな家族の再編成を促すきっかけになる
  • この家族の歪みが修正されるに従って、症状は家族システムの中で存在理由を失い、軽快もしくは消失していくと考える