横田俊勝 慢性疼痛 2002;21(1):9-21 滋賀県立医大生理学名誉教授

  • 痛みの定義 IASP
    • 痛みは、実質的または潜在的な組織損傷に伴う、あるいはこのような損傷を表現する言葉を使って述べられる不快な感覚情動体験
    • この定義には下記の注釈がつく
    • 痛みを引き起こす刺激は、組織を損傷しやすい。人は生涯の早い時期の体験を通じて、組織損傷と痛みの関係を知り、痛みを実質的、潜在的組織損傷と結びつけることを学んだ。成人してから、別な理由でこのときの体験が再現されると、痛いと思う
    • 痛みの記憶が痛みの認知の基礎になっている
    • 人々は幼児の体験を通して、どうすれば痛い目にあうかを知り、組織損傷と痛みの関係を学んで、危険を避ける方法を身につける。
  • 生後間もない時期に経験した痛みが、その後の痛み刺激にたいする反応を修飾する
  • preemptive analgesia 痛みのインパルスが脊髄に送り込まれるのを遮断すると、幻肢痛の発生を予防できる
  • 痛みの陳述的記憶
    • 過去の痛みの再生
    • 過去の痛みの性質、強さ、苦しみ、すなわち痛みの経験の記憶
    • 痛みを生じた状況の記憶
  • 痛みの恐怖の記憶
  • 長期増強
  • 痛みの感覚の記憶
  • 警告信号としての役割を終えた痛みは生体にとって有害である。痛み経験の影響の中には痛みを増幅させたり、新たな痛みを生じたりして生命の保存に悪い影響を与えるものがある。
  • 急性痛の段階で十分な除痛を行って、痛みのエングラムが中枢神経内に書き込めれないように努め、有害無益な慢性痛への移行を防止することが肝要である

藤武、前野哲博 慢性疼痛患者への精神療法的アプローチ 慢性疼痛 2002;21(1):55-56

  • 慢性疼痛患者にたいする精神療法的アプローチ 英国のプライマリケア医に提唱されているre-attribution model
    • 1)feeling understood どうして、このような病気にいたったかという物語を傾聴する
    • 2)Broading the agenda 現在はなしあっているテーマを広げていく作業
    • 3)Making the link そのテーマを心理的な問題とつなげる過程
    • 4)Negotiating further treatment これからどうしていけばよいかという問題に対して、交渉する作業
  • 痛みさえ取ってくれれば、何も難しいことをいうのはやめてくれと医療者に憤る患者が存在するのも現実
  • 症例
    • 痛みの患者による身体モデルを否定せずに傾聴
    • 痛みの物語をひろげる
    • 心理社会的問題とつなげる
    • さらなる治療への交渉
  • 一般に医療者への過度の依存は、医療への過剰な期待を抱かせるだけなく、自己治癒力を損なう結果となり、長期入院、頻回受診、医療者や家族への依存などの問題を引き起こす
  • 転移が見られる時期を主治医が十分認識した上で、患者への心理的距離が近すぎないように試みた。