- 作者: アンドリューシムズ,Andrew C.P. Sims,飛鳥井望,野津眞,松浪克文,林直樹
- 出版社/メーカー: 西村書店
- 発売日: 2009/05/01
- メディア: 単行本
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第17章 痛みの精神病理
第17章 痛みの精神病理
青山幸生、牧裕一、木造理枝、小竹良文:高齢期の心因性(慢性)疼痛に対するアプローチ. 老年精神医学, 27:1046-1051,2016.
- 痛みは、個人のもつ意識内容そのものであり、きわめて主観的な事象である
- 痛みの治療には、全人的(身体・心理・社会・実存的)にその患者を理解しようとする態度が必要であり、最終的には心因性、器質性を超えた”今、ここ”に生きている人間そのものとしての理解が必要である
- 高齢期の場合、身体的基礎疾患の有無を始めとして、認知機能の低下や精神障害の有無、生活歴、生活環境、生きがいなどにより痛みの訴えに大きなさが見られる
- とくに、性格や気分障害の有無、うつ状態、認知症の有無、その程度によっては、痛みに訴えが過度になったり、過小になったりもする
- 痛みは、個々の持つ意識内容そのものであり、まったく主観的な問題であるため、少なくとも個人にしか理解しがたい事象で、正確に心因性と器質性を分けることが困難であるが、いわゆる心因性疼痛と呼ばれるものは、すくなくとも明らかに心因性(脳における痛みの解釈の誤作動)が有意であると治療者が判断できるような病態を呼ぶものだろうと考えている
- 原因が上記位のいずれであろうとも、患者は自分自身の身体のどこかの場所を借りて、また、さらに「身体の痛み」として症状を訴えるため、高齢者に限らず、いわゆる心因性疼痛の治療は難渋するケースが多い
- 高齢者の心因性疼痛においては、幼児期の不幸な体験や戦争体験、心的外傷体験など過去の精神的トラウマが病気の発症や維持にすくなからず影響する場合が認められるが、一方、現在の心理的葛藤、家庭内の問題、人間関係、経済的問題などの社会的要因が関与している場合も多い
- 患者という氷山の上に実際に見える「痛みという症状」の水面下に、実は見えないかたちで隠されたこの実存性の問題はすくなからず高齢者の痛みの発症、維持に関与しているものと思われる
- 痛みの解決には、水面下に潜んでいる患者個々の実存性へのアプローチが必須であり、そのことにより、少しでも患者自身の持つ「痛みの意味」「苦痛の意味」を全人的に理解することが可能となる
- まずは簡単で、安全な身体的な診察・治療を施行しながら、同時に患者の心のなかに渦巻いている怒りや不安、後ろ向きの態度などを吐き出させ、浄化することが疼痛治療においては最初に行う、なによりも重要なアプローチであり(心の浄化)、以上の過程で初めてお互いの信頼関係が構築でき、痛みの本質でもある氷山の水面下に隠された部分(患者固有の問題、資源)へのアプローチが可能となる
鋪野紀好、生坂政臣: 第1回怒っている患者を理解する. レジデントノート, 19;2634-2640.
- DIfficult Patientとは、担当医に強い陰性感情、すなわち「イライラする」「嫌だ」といった感情を引き起こす患者と定義されます。諸外国におけるプライマリケア・セッティングでの調査ではdifficult Patientは外来患者の15%を占めるとされ、良質な患者中心の医療の実現には、その対応法の習得が必要となります。
- Difficult Patineへの対応には、陰性感情を感じる要因を客観的に分析することが重要になります。
- 患者の感情変化をすばやく察知し、怒りの原因をとくていすること
- 深呼吸して一旦冷静になる
- アンガーマネジメントでは自分の怒りのピークは6秒以内
- 共感 患者がおこっている感情を正当化し、その感情を理解したことを伝える
鋪野紀好、生坂政臣: 第2回ノンアドヒアランスの患者を理解する. レジデントノート, 2804–2810.
鋪野紀好、生坂政臣: 第3回身体症状症患者を理解する. レジデントノート, 19;3236-3244.
- 身体症状症とはさまざまな身体症状が慢性的にそんざいするものの、適切な診察・検査をおこなっても身体疾患では十分にせつめいできず、また、症状につよくとらわれるようになり、強い苦痛や日常生活への支障がみられることを特徴とする疾患。
- sick role(病者の役割)
- 病者は種々の社会的責務を免除され、医師はそれらを保証し合法化する役割をはたす
- 病者は病気や自己の置かれた立場に責任をもたず、他人の援助を受ける権利がある
- 病者は早く回復しようと努力しなければならない
- 病者は専門的援助を求め、医師に協力しなければならない
- 身体症状症患者への効果的な対処方法
松岡弘道:心身医学を専門とするわれわれが意識できる疼痛緩和. 心身医, 57:124-137,2017.
- ソンダースは苦しみには身体的な要素だけではなく、精神的、社会的、スピリチュアルな要素が影響していると考えた。さらに「これらが互いに影響し合い」、全体として苦しみを形成していると述べ、これらすべてをふくむ双胎として苦しみを捉えるべきであると指摘している
- しかし、最近の緩和医療では、この「これらが互いに影響し合い」が忘れられ、分割された医療がおこなわれている場合もある
- 患者の心理状態を把握する際には、精神的苦痛、スピリチュアル・ペインへの評価が必要になる
- 具体的には、1病気の理解と意味、2痛みの理解と意味、3痛み治療の理解と意味、4コーピング、5精神症状の評価(不安、抑うつ、せん妄、不眠などの有無),6患者の心配事と未完の仕事、7生きる意味や生きがいなどである
- この際ケミカルコーピングがないか、身体症状症やアレキシサイミアが疼痛に関与していないかも合わせて評価したい。これらの情報と客観的データと合わせて、痛みの原因やメカニズムを考え(病態仮説を作り)、治療方針を決定する
- 自分の感情に気づくのが困難という傾向は、疼痛の強さに関連することが示唆されている(アレキシサイミア)
- 痛み診療では、別の視点が必要で、「私は痛い」という痛みの表出は「助けて!}というサインであることを理解することが重要である。患者お「助けて!」に対する医療者の援助者としての意識の志向性が、患者の反応を呼び起こし、意識の相互作用から医療者ー患者関係が成立する。痛みなどの「特殊な状況」つまり患者の「人間らしさ」が失われつつある時、われわれがその人間らしさ(ユマニチュード)を特別に意識し、症んいんしなければ人間同士の関係とはならないことを再認識しておきたい
- 難治性疼痛の病態を理解するためには、一方向性の「ものの見方」では解決できない点が数多くあり、一方向性の「ものの見方」に固執しない心身医学的アプローチが寄与できる点は非常に大きく、これらの学びを深めるには構造構成主義の考え方を取り入れてみたい
- 第7回 アクセプタンス
- アクセプタンスとは、コントロールできないものとできるものを区別し、自分のエネルギーを注ぐべき方向性を見極めること
- 「きれいな痛み」とは、ストレスフルな体験の後に誰もが感じるであろう当然の反応の部分
- 「きたない痛み」とは、きれいな痛みをなんとかhしようとして生じてくる追加的な痛みのことである。これは人によって、程度が大きく変わってくる部分になる
- 第8回 施行が行動に与える影響を無力化する
- 自分の施行を吹き出しのセリフにする 「ーーと考えた」「ーーと思った」
- 典型的なな思考にニックネームをつける
- いままでは勝手に発生していた自分の思考に巻き込まれていただけが、一歩離れてその思考を眺めることができるようになる
- ここで大事なのは、言葉で表現された思考の内容そのものは代わっていないが、思考と自分との関係が変わるという点である 「脱フュージョン」
- 思考(ことば)は突き詰めると文字という刺激でしかない
- 嫌な思考の影響を無力化する
- 第9回 レジリエンスのある自己
- 「健康な人では、何かの症状や変化が出ても、ストレスがされば元の状態に戻る力」があり、こういった能力をレジリエンスといい、復元力とも呼ばれる
- このレジリエンスが安定して存在する自己の側面が、「観察者としての自己」と呼ばれる側面である
- 「観察者としての自己」は「概念としての自己」が形成される前から存在
- 「概念としての自己」に執着していないか
- さまざまな内的出来事をとらえることが、「観察者としての自己」の視点である
- 第10回 現在から未来へむかった行為パターンを意識する
- ACTにおける”価値”とは「人生を法国府津kてたり行動の原動力となったりするような、個人的な強みや資質」
- 重要なポイントは、「価値はなにかのゴールや結果でなく、(それらが伴うこともあるが),方向性である]ということ
- “価値”とは、その内的出来事を明確に意識して、距離をとりながらもじっくり観察するようにマインドフルな注意を向けることにより自身に及ぶ影響を確認し、どのように行動したらよいかの案内役をもつようになるものである
- 第11回 望んだ人生の方向に進み始める
- マインドフルネス 人生において、自ら本当に望む行動を増やしていくための補助的なスキル
- 望む行動を妨げる自分の思考に従う必要はなく、逆に望む行動尾を増やすための思考(つまり”価値”のこと)の方に注意を向けて、それに一致するようにアクションしていけばよいのである
- 第12回 まとめと体験、そして応用のヒント
- 自分の心の中に勝手に生まれ続ける苦悩をなくそうとすることは、不可能である。こうした無駄な努力にエネルギーを注ぐことはあきらめ、長い目で見て自分が取り組んでいきたいアクションをすこしづつでも増やしていく方に自分の時間と注意を捧げることで、結果的に苦悩から距離を置けるようになる。そして生活や仕事の上での充実感や幸福感を感じられるようになり、今度はそういったいわゆるポジティブな内的出来事に注意を一層向けられるようになるという良い循環が期待できる
- 心の中時自動的に生じる思考や感情等の内的出来事に対し、それに巻き込まれないようにしながら、足や手、呼吸に伴うおなかの動き等の身体感覚に注意を向け続けるようにすることである
- 第1回 マインドフルネスって何?
- マインドフルネスを一言で言い表すと、「今」という瞬間に対する気付きのこと
- 現在の時間の流れと思考内容の時間の不一致に自覚的になるおとができれば、自分の思考と距離をとって向き合うことが可能となる。つまりストレスに巻き込まれにくくなる
- 第2回 苦痛と苦悩の違いについて知ろう
- 白くまの姿をイメージする。これから3分間白くまのことを考えないでくださいといわれても難しい
- 人間は自分の考えを必ずしも自分の意図するように扱えるわけではない
- 自分の思考や感情と言った内的な状態が仕事のパフォーマンスに対して妨害要因になっている
- 苦痛 からだや心に感じる苦しみや痛み 苦悩 あれこれお苦しみ悩むこと
- マインドフルネスは、元の苦痛に余計な判断を加えずありのままに捉えることに加え、苦悩が広がっていく思考のプロセスに気づいて距離を取り、これに巻き込まれない態度をとることといえる
- 第3回 苦悩の正体
- 過去や未来についての考えに自分の注意を奪われ、「今」という一瞬一瞬の時間の長れを意識することから離れてしまい、自分の行動に無自覚になる状態を、「自動操縦状態」と読んでいる
- 苦悩が増幅するプロセスに巻き込まれないようにするためには、自分の思考の動きが「この言語マシーンが自動でうごいているようなものである」と認識することが非常に役に立つ
- 言葉や思考から自由になるのは難しい
- 必要なときに意図的に、言葉や思考から距離を置けるようになれる練習をすればよい。具体的には、何かストレスを生じさせる出来事に直面した時や、好ましくない感-情の変化を感じたときなどに、自身の感情プロセスに注意を向けるようにする
- 第4回 マインドフルネス・スキルと身体感覚
- マインドフルネスステレス低減法 呼吸に注意を向ける/座って瞑想する/身体の感覚に注意を向ける(ボディスキャン)/歩き瞑想/食べる瞑想/ヨガ
- 「今」という瞬間に注意を向ける練習をする必要がある
- 心を無にするといったような思考や感情のコントロールは基本的にはできないと考えたほうがよい
- 第5回 何のためのマインドフルネス
- ACTの観点から、マインドフルネスは、「人生において、自らの本当に望む行動を増やしていくための補助的なスキル」といえる
- ACTにおける「価値」とは、「人生を方向づけたり行動の原動力となったりするような、個人tネキな強みや資質」を意味する-
- 自分の施行がアクションに与える影響は強いが、施行がアクションを引き起こしているわけではない
- 「私は立ち上がって歩けない」と考えながら、立ち上がってあるくというアクションはできる
- 考えている内容と実際のアクションは、基本的には独立している
- 6つのコアプロセス アクセプタンス、脱フュージョン、今、この瞬間との接触、文脈としての自己
- 第6回 「今、この瞬間」との接触
- いまの瞬間の中を生きているのにもかかわらず、容易に過去や未来の施行に入り込んでしまう
- 「今、この瞬間」への注意がそれやすいパターンに気づいて行動を変えることが、「「今、この瞬間」との接触」のプロセスである
- 刺激に向ける注意 3つの側面 「注意の焦点付け」「注意の広がり」「注意の柔軟な配分]
- マインドの2つのモード 「問題解決モード」「夕焼けモード」
- マインドフルネススキルを身につけるためには、必要に応じてこの「夕焼けモード」に意図的に切り替えるようにしていく練習をする必要がある