マインドフルネススキルを身につける 2

土屋政雄氏の連載より 

  • 第7回 アクセプタンス
  • アクセプタンスとは、コントロールできないものとできるものを区別し、自分のエネルギーを注ぐべき方向性を見極めること
  • 「きれいな痛み」とは、ストレスフルな体験の後に誰もが感じるであろう当然の反応の部分
  • 「きたない痛み」とは、きれいな痛みをなんとかhしようとして生じてくる追加的な痛みのことである。これは人によって、程度が大きく変わってくる部分になる
  • 第8回 施行が行動に与える影響を無力化する
  • 自分の施行を吹き出しのセリフにする 「ーーと考えた」「ーーと思った」
  • 典型的なな思考にニックネームをつける
  • いままでは勝手に発生していた自分の思考に巻き込まれていただけが、一歩離れてその思考を眺めることができるようになる
  • ここで大事なのは、言葉で表現された思考の内容そのものは代わっていないが、思考と自分との関係が変わるという点である 「脱フュージョン
  • 思考(ことば)は突き詰めると文字という刺激でしかない
  • 嫌な思考の影響を無力化する
  • 第9回 レジリエンスのある自己
  • 「健康な人では、何かの症状や変化が出ても、ストレスがされば元の状態に戻る力」があり、こういった能力をレジリエンスといい、復元力とも呼ばれる
  • このレジリエンスが安定して存在する自己の側面が、「観察者としての自己」と呼ばれる側面である
  • 「観察者としての自己」は「概念としての自己」が形成される前から存在
  • 「概念としての自己」に執着していないか
  • さまざまな内的出来事をとらえることが、「観察者としての自己」の視点である
  • 第10回 現在から未来へむかった行為パターンを意識する
  • ACTにおける”価値”とは「人生を法国府津kてたり行動の原動力となったりするような、個人的な強みや資質」
  • 重要なポイントは、「価値はなにかのゴールや結果でなく、(それらが伴うこともあるが),方向性である]ということ
  • “価値”とは、その内的出来事を明確に意識して、距離をとりながらもじっくり観察するようにマインドフルな注意を向けることにより自身に及ぶ影響を確認し、どのように行動したらよいかの案内役をもつようになるものである
  • 第11回 望んだ人生の方向に進み始める
  • マインドフルネス 人生において、自ら本当に望む行動を増やしていくための補助的なスキル
  • 望む行動を妨げる自分の思考に従う必要はなく、逆に望む行動尾を増やすための思考(つまり”価値”のこと)の方に注意を向けて、それに一致するようにアクションしていけばよいのである
  • 第12回 まとめと体験、そして応用のヒント
  • 自分の心の中に勝手に生まれ続ける苦悩をなくそうとすることは、不可能である。こうした無駄な努力にエネルギーを注ぐことはあきらめ、長い目で見て自分が取り組んでいきたいアクションをすこしづつでも増やしていく方に自分の時間と注意を捧げることで、結果的に苦悩から距離を置けるようになる。そして生活や仕事の上での充実感や幸福感を感じられるようになり、今度はそういったいわゆるポジティブな内的出来事に注意を一層向けられるようになるという良い循環が期待できる
  • 心の中時自動的に生じる思考や感情等の内的出来事に対し、それに巻き込まれないようにしながら、足や手、呼吸に伴うおなかの動き等の身体感覚に注意を向け続けるようにすることである

マインドフルネススキルを身につける 1

土屋政雄氏の連載より 

  • 第1回 マインドフルネスって何?
  • マインドフルネスを一言で言い表すと、「今」という瞬間に対する気付きのこと
  • 現在の時間の流れと思考内容の時間の不一致に自覚的になるおとができれば、自分の思考と距離をとって向き合うことが可能となる。つまりストレスに巻き込まれにくくなる
  • 第2回 苦痛と苦悩の違いについて知ろう
  • 白くまの姿をイメージする。これから3分間白くまのことを考えないでくださいといわれても難しい
  • 人間は自分の考えを必ずしも自分の意図するように扱えるわけではない
  • 自分の思考や感情と言った内的な状態が仕事のパフォーマンスに対して妨害要因になっている
  • 苦痛 からだや心に感じる苦しみや痛み 苦悩 あれこれお苦しみ悩むこと
  • マインドフルネスは、元の苦痛に余計な判断を加えずありのままに捉えることに加え、苦悩が広がっていく思考のプロセスに気づいて距離を取り、これに巻き込まれない態度をとることといえる
  • 第3回 苦悩の正体
  • 過去や未来についての考えに自分の注意を奪われ、「今」という一瞬一瞬の時間の長れを意識することから離れてしまい、自分の行動に無自覚になる状態を、「自動操縦状態」と読んでいる
  • 苦悩が増幅するプロセスに巻き込まれないようにするためには、自分の思考の動きが「この言語マシーンが自動でうごいているようなものである」と認識することが非常に役に立つ
  • 言葉や思考から自由になるのは難しい
  • 必要なときに意図的に、言葉や思考から距離を置けるようになれる練習をすればよい。具体的には、何かストレスを生じさせる出来事に直面した時や、好ましくない感-情の変化を感じたときなどに、自身の感情プロセスに注意を向けるようにする
  • 第4回 マインドフルネス・スキルと身体感覚
  • マインドフルネスステレス低減法 呼吸に注意を向ける/座って瞑想する/身体の感覚に注意を向ける(ボディスキャン)/歩き瞑想/食べる瞑想/ヨガ
  • 「今」という瞬間に注意を向ける練習をする必要がある
  • 心を無にするといったような思考や感情のコントロールは基本的にはできないと考えたほうがよい
  • 第5回 何のためのマインドフルネス
  • ACTの観点から、マインドフルネスは、「人生において、自らの本当に望む行動を増やしていくための補助的なスキル」といえる
  • ACTにおける「価値」とは、「人生を方向づけたり行動の原動力となったりするような、個人tネキな強みや資質」を意味する-
  • 自分の施行がアクションに与える影響は強いが、施行がアクションを引き起こしているわけではない
  • 「私は立ち上がって歩けない」と考えながら、立ち上がってあるくというアクションはできる
  • 考えている内容と実際のアクションは、基本的には独立している
  • 6つのコアプロセス アクセプタンス、脱フュージョン、今、この瞬間との接触、文脈としての自己
  • 第6回 「今、この瞬間」との接触
  • いまの瞬間の中を生きているのにもかかわらず、容易に過去や未来の施行に入り込んでしまう
  • 「今、この瞬間」への注意がそれやすいパターンに気づいて行動を変えることが、「「今、この瞬間」との接触」のプロセスである
  • 刺激に向ける注意 3つの側面 「注意の焦点付け」「注意の広がり」「注意の柔軟な配分]
  • マインドの2つのモード 「問題解決モード」「夕焼けモード」
  • マインドフルネススキルを身につけるためには、必要に応じてこの「夕焼けモード」に意図的に切り替えるようにしていく練習をする必要がある

心理社会的背景の関与が疑われる痛み

松岡弘道: 心理社会的背景の関与が疑われる痛み. 月刊薬事, 60:838-844.

  • 慢性疼痛患者の多くは、医療者に理解されていないと感じているため医療者への訴え方が執拗になりうる
  • 慢性疼痛診療では患者の要求(痛みをゼロにするなど)を満たすことが不可能な場合が多い。このため患者は医師に不満を抱き、医師も患者に陰性感情をいだきやすく、不安定な医師、患者関係となりやすい
  • 臨床上重要なのは、病名(診断名)にこだわりすぎるのではなく、その病態に注目することである
  • 理解されないながらも頑張ってきたことを労うと、うっすらと涙を浮かべて「自分は感情を表に出してはいけないと思って生きてきたので、驚きです」とのことであった
  • 病態仮説(患者の困りごとを取り巻くさまざまな因子の相関図)を作り、それを患者に修正してもらい、患者の解釈モデルにおける医学的矛盾点を説明し、この相互のやり取りを繰り返しながら、最終的に共有した病態仮説を完成させた
  • 結果、父親に似た職場の上司へ意見を言えないことが病態に関与していることへの気付きが得られ、上手にNoといえるコミュニケーションスタイルの確立を目指すこととした
  • 問診から診察に至る順番も、原則身体面が中心である。なぜなら患者の主訴は痛み(”身体疾患”と信じている)であるため、最初から心理面の話をすると、自分の身体症状が理解されていないと感じるリスクが高まる可能性があるからである
  • 夫が患者なのに妻がついて来ない場合、何か理由があるおとが多い
  • 医療者は患者と対等の視点で、患者の自己解決能力を信じて接する姿勢が重要である
  • 慢性疼痛患者のパターン
    • 自己変容で改善することが期待される病態
    • 他者の援助を受けて、自らが行動を起こすことで改善することが期待される病態

—他者が行動を起こすことで改善することが期待される病態

  • 筆者は自らの態度を戒める意味でも、「心因性疼痛」という言葉を臨床上使わないように意識している。
  • 患者に陰性感情を持ち、中立的に対応しずらくなる場合があると考えるからである。痛み診療では、「私は痛い」という痛みの表出は「助けて!」というサインであることを理解することが重要であり、患者の「助けて!」に対するう医療者の援助者としての志向性が、患者の反応を呼び起こす
  • 「検査で異常がないこと」は「器質的異常がない」ことは意味しないこと、つまり「機能的疼痛であること」を説明する

fMRIにおける急性疼痛関連脳活動の特徴.

倉田二郎:fMRIにおける急性疼痛関連脳活動の特徴. 麻酔, 53:S162-S167,2004

  • fMRI 0.2秒から数秒の高い時間解像度、1.5-3mm程度の細かいvoxel sizeが可能にする高い空間解像度
  • 活性化した脳神経細胞の周囲には、より酸素飽和度の高い血液が出現し、したがって還元ヘモグロビンの割合が減少する。還元ヘモグロビンは酸化ヘモグロビンに比べ磁場を乱す性質が強いため、還元ヘモグロビンが少ない血液ではT2*強調MRI信号強度が増加する。この信号変化はblood oxygenation level-dependent (BOLD) effectと呼ばれ、これを神経活動増大としてとらえるのがfMRIの原理である
  • 1995 Davisらが初めてfMRIを用いた実験を発表した
  • 疼痛関連領域 S1,S2,島、前帯状皮質前頭皮質など複数の離れた脳部位
  • 疼痛関連脳活動は、何らかの抑制性要素が含まれることが示唆された
  • 疼痛は他の神経ネットワークをも抑制する
  • BOLD信号時間経過を分析した結果、疼痛関連脳活動は疼痛刺激が続く間に早く減衰すること、また疼痛に関連しない眼振運動関連神経ネットワークへも抑制性の影響を及ぼすことが明らかになった。これは、上行性の感覚情報処理のみならず、下行性の情動・注意・認知的要素が複雑に絡み合う疼痛脳内機構の一端を示すと考えられる

痛みのトップダウン機構. 脳機能画像:研究から臨床、痛みから意識へ.

大城宣哲、溝渕知司:痛みのトップダウン機構. 脳機能画像:研究から臨床、痛みから意識へ. LiSA, 19:478-483,2012.

  • 痛みには視覚に対する視覚野のような特異的な領域はみつかっておらず、多くの領域(視床、体性感覚野、島、前帯状回前頭前野など)が同時に活動するため、ペインマトリックスと呼ばれている
  • 前頭前野ー痛みの認知、前帯状回ー情動や注意、右頭頂葉ー空間認知気、島前部ー情動
  • 49度の熱刺激から50度に一度だけ温度を上げて、再び49度に下げる。このとき痛みの強さが例えば8から9に上がり、再び8に下がるかというとそうではない。ほとんど0近くまで下がってしまう。これがオフセット鎮痛
  • 痛みの下行性抑制系
  • オフセット鎮痛 fMRIで下行性抑制系にかかわるとされる中脳水道灰白質や青斑核、大縫線核(吻側延髄腹内側)などに活動がみられた
  • 2001 ワシントン大学 Dr Raichle
  • default mode network
  • ぼーっとして何もしないときに活動している領域(内側前頭前野、楔前部・後帯状回、下頭頂葉小葉など)
  • 慢性腰痛や線維筋痛症などで、default mode networkをはじめその後みつかったいろいろな安静時ネットワークに変化が起きていることが報告されている
  • 意識レベルが低下するにつれてdefault mode networkの機能的結合が低下
  • Alzheimer型認知症では、健常者と患者の安静時ネットワークの違いが多数報告され、認知症の早期発見につながるものと期待されている
  • 痛みの場所の識別している時の脳活動 S1,S2には活動なし、かわりに内側系で情動や認知にかかわるとされている前頭前野や前帯状回、そして空間認知にかかわるとされる右後部頭頂葉
  • 痛みの強さの識別を行っている時の脳活動 S1,S2に活動なし 内側系とされる前頭前野や前帯状回、さらに痛みの質や情動にかかわるとされる島の前部に活動あり
  • 新しい痛みの識別モデル
    • 識別の対象で経路が分かれる
    • 場所の識別では、前頭前野トップダウンで前帯状回(注意にかかわる)に指示、右頭頂葉(空間認識にかかわる)が体性感覚野にボトムアップで登ってきた情報を選別して上位中枢に送る
    • 強さの識別では、前頭前野・前帯状回が島(痛みの質や情動に関与する)を経て、体性感覚野で痛みの強さに関する情報を選別する
  • 脳疾患患者の痛覚失認
    • これまで島の病変が痛覚失認を起こすという論文が信じられてきた
    • 被殻の病変患者で、痛み刺激に対する痛覚低下がみられた
    • 脳機能画像などで脳の研究が進んだことで、今まで知られていなかったトップダウンの痛みの調節機構が徐々に明らかになっている
  • pharmacological fMRIと術中fMRI:鎮静・鎮痛と麻酔

デフォールトモードネットワークのなかでも特に楔前部は意識のハブ的な役割をする可能性が指摘されており、とても興味深い

機能的脳画像診断機器

倉田二郎:機能的脳画像診断機器ー痛み脳バイオマーカーを提示するマルチモーダル磁気共鳴画像法の臨床応用ー. 麻酔, 63:737-742.

  • 慢性痛が成立するメカニズム 3つ
    • 末梢神経から脊髄へと痛みが伝達される経路が増強される場合
    • 末梢神経から脊髄・脳のいずれかの場所で、神経そのものが障害をうける場合
    • 誘引としての急性痛がなく、かつ神経そのものの障害が明らかな出ない場合
  • 痛みには弁別、情動、認知という3要素が含まれる
  • 脳はこれらの要素を複数の離れた場所で分散して処理し統合することにより”痛み”という体験を生み出す
  • 痛みの位置と強さと弁別 外側侵害受容系(外側視床核、第一次、第二次感覚皮質、島皮質)
  • 痛みの情動、認知 内側侵害受容系(内側視床核、島皮質、前帯状皮質前頭皮質
  • 痛みを避けよう、解決しようとする運動成分 補足運動野、運動前野、大脳基底核
  • 病的疼痛は外側・内側侵害受容系における過剰な神経活動と関連する可能性がある
  • 特殊な設備や刺激方法を必要としないMRI技術 resting-state fMRI, voxel-based morphometry
  • Default mode networkとは、後帯状皮質、頭頂皮質、眼窩前頭皮質などを中心とするネットワークで、さまざまな認知タスクや刺激に対して、一様に神経活動低下ないし脳血流低下を呈する場所である。意識状態、内省、認知機能に深く関わると考えられている
  • 慢性痛では側坐核を中心とする報酬系の機能不全が示唆されている。側坐核と内側前頭皮質との機能的結合性を慢性腰痛患者の予後と相関分析した結果、この機能的結合性が高いほど難治性であることが報告された。このネットワークの機能が痛みの面成果に大きな影響を及ぼすことが示唆された
  • 痛みによる脳機能・解剖変化 筆者は、これは原因と結果の両方の要素を含んでおり、慢性痛が形成される局面によりその割合が異なると考えている

意識のメカニズムと麻酔薬作用を解明する-機能的脳画像法によるアプローチ-

倉田二郎: 意識のメカニズムと麻酔薬作用を解明する-機能的脳画像法によるアプローチ- 麻酔,56:S89-S98,2007

  • 感覚情報とその統合が、意識の成立に不可欠
  • 感覚情報の受容と統合は、意識が成立するための必要条件であるといえよう
  • 感覚情報が統合される過程をbinding(束ね)と、その神経科学的探求をbinding problemと呼ぶ
  • 異なる視覚要素の情報が一つに統合されて、初めて視覚という単一の感覚modalityが完成する この過程をunimodal bindingと呼ぶ
  • 異なるmodalityの感覚要素が統合される過程をmulti-modal bindingという
  • multimodal bindingは、大脳皮質感覚連合やにおいて成立すると考えられている
  • 種々の感覚要素が、脳の機能単位である複数の脳領野を経て連合野に至る過程が、意識のモデルとなりうる。
  • 機能的脳画像法でみた麻酔薬作用機序
  • 1 鎮静濃度では、大脳皮質連合野が抑制される
  • 2 意識消失濃度では、視床が抑制される
  • 3 体動抑制濃度では、視床から大脳皮質にわたり全脳が抑制される
  • なお、実際の体動抑制作用は、脊髄の運動ニューロン抑制が主に関与すると考えられる
  • 機能的脳画像法研究で得された麻酔と睡眠のメカニズムに関する知見の概説
  • 1 “意識=覚醒”のモデルは、脳における感覚要素の統合(binding)として定義可能である
  • 2 麻酔薬は、用量依存性に感覚連合野を、続いて第一次感覚野、視床を抑制する
  • 3 静脈麻酔薬、揮発性麻酔薬とおに、神経血管共役を阻害する
  • 4 γ帯域情報伝達は、麻酔薬により大脳皮質間で抑制され、視床ー大脳皮質間では比較的保たれる
  • 5 睡眠でも、麻酔と同様に、感覚連合野における抑制が観察されるが、体性感覚は第一次感覚野にも到達せず、視床以下で遮断される可能性がある